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その後、私は公園である人物を探した。すでに辺りは暗くなり始めていた。
「居た」
ベンチに背を丸めて座っている老人、あれは間違いなく猫じいのシルエットだ。
「こんばんは」私は駆け寄って、挨拶をした。
「おー、あんたか」
「あの……あなたは、その……未来が分かるとか、いわゆる予知能力みたいなものがあったりするんですか?」
唐突にこんなことを聞くなんて、他人が聞いたら、どうかしていると思うだろう。しかし、後になって考えると、猫じいは、私に起こることを事前に知っていて、忠告してくれていたとしか思えなかった。今日は、本人にそのことを確認しに来たのだ。
「いいや」
猫じいは、拍子抜けするくらい、あっけなく否定した。
「わしには何も分からん。なんでも知ってるのは猫たちだよ。あいつらはどこの家にでも潜り込めるからな」
やはり猫と喋れるという、いつもの主張を変える気はないようだ。
「では、今、私がどんな状態にあるか、ご存知ですか?」
「まぁ、大体は知っとる」
猫じいはコホッと一つ咳をしてから、続けた。
「猫たちもかなり驚いていたよ。人間もまだ捨てたものじゃないと感心しとった」
「そうですか……」
颯介の企みは知っていたが、カイリが裏切ることまでは予測できていなかったということか。
それならば、予知能力より、本当に猫たちの情報網があると思った方が、辻褄が合う。
私は猫じいの説明をそのまま受け入れることにした。世の中に一つくらい、人の知り得ない不思議なことがあってもいいだろう。
そんな気持ちが通じたのか、
「あんたは、あんたが信じたい人を信じればいいんじゃよ」
猫じいはそう言うと、目を細めて少しだけ口角を上げた。
私は猫じいが笑ったところを初めて見た。
「ありがとうございます!」
私は深々とお辞儀をして、公園を後にした。
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