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数日後、私は意を決して颯介に会いに行った。
会社から帰宅した颯介は、間接照明だけつけて、ダイニングテーブルに座っている私の姿を見て、ぎょっとした顔をした。
カイリからもらった写真データを携帯に表示させて見せると、
「お、おまえだって、不倫していたじゃないか。お互いさまだろ」
颯介は顔を引きつらせ、思った通りの反論をしてきた。
「これはね。あなたが雇った探偵がくれたの。彼は私に近づいたのは、あなたの依頼だったって白状したわ」
私が手の内を明かすと、
「あいつめ……契約違反で訴えてやる」颯介は忌々しげに呟いた。
私は呆れた。別れさせ屋を雇って、妻を陥れようとしたなど、逆に自分の罪を告白するようなものではないか。訴えるなんてできるわけがない。
「おまえは俺が仕掛けた罠とも知らず、すっかり舞い上がって、ウキウキとケーキなんか焼いちゃってさ。見ていて本当に滑稽だったよ。仕事でもなければ、誰がおまえなんか相手にするか」
颯介は開き直って、私を侮辱し始めた。
「確かに……滑稽だよね。私は探偵から全てを聞いて、世の中の何もかもが信じられなくなった。
でもよく考えてみたら、私の不幸の原因は、全てあなたが作ったものじゃない。だから、私の世界からあなたを切り離せば済む話。そんな簡単なことに気づくのにずいぶん時間がかかってしまったわ」
私は毅然と言い返し、
「私たち離婚しましょう。もうあなたと直接会うことはないと思う。あとは弁護士さんを通じて連絡させてもらいます」と通告した。
弁護士は紗英の旦那の黒木さんに紹介してもらい、すでに依頼済みだ。
颯介はもう反論する気がなくなったのか、じっと黙り込んでいた。
「さようなら」
私は住み慣れた我が家を後にした。切なさや愛惜の情を感じることは一切なかった。
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