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私はその足で、ある場所に向かった。
今日一日だけは母に頼んで、薫花の面倒をみてもらっている。
高級ホテルではないが、ビジネスにも観光にも使える小綺麗なホテル。ロビーでは外国人観光客の親子がはしゃいでいる。
私は出入口が見やすい位置のソファに腰を下ろした。
すぐに待ち合わせ相手が現れ、私は軽く手を挙げ、自分の存在を知らせた。
「来てくれてありがとう。ええと、工藤海里さん」
私は初めて彼を、名刺を見て知った本名で呼んだ。
「こちらこそ、連絡もらって嬉しかった。もう俺とは会ってくれないと思ってたから」
海里は本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。それを見て私の頬も緩む。きっと今、二人は同じ顔をしているだろう。
「でも……」海里は周囲をキョロキョロと見回した。
「じゃ、行こう」
私がさっさと歩いて、エレベーターに乗りこむと、
「ちょっと待ってよ」
海里は慌てて後を追ってきた。
海里は何か言いたげだったが、他の客も乗っていたので、会話ができる状態ではない。
私は目的の部屋に着くと、予め預かっていたキーでドアを開けた。
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