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クリスマスイブ。眩しいほどの電飾が煌めく商店街と、対照的に公園はいつものように薄暗かった。私は白い息を吐きながら、ベンチに近づいた。
「メリークリスマス!」
「おお!」
私に背後から大きな声をかけられ、猫じいが飛びあがった。
「はい、これ。クリスマスプレゼント」
私は猫じいに、キャットフードの缶がたくさん入ったビニール袋を渡した。
「ありがとう。あいつらも喜ぶよ」
猫じいは嬉しそうに受け取った。
私はあれ以来、毎年クリスマスに猫たちに差し入れをしているのだ。
「おじいさんも風邪ひかないよう、体には気をつけてね!」
私は早速、猫缶を開けている猫じいに手を振ると、公園を出た。
予約したケーキを取りにいった海里と薫花とは、駅で落ち合うことにしている。
私は早足で駅へ向かった。
途中、以前住んでいた家の近くを通りがかった時、私は見覚えのある人影に気づいて、とっさに身を隠した。
颯介が背中を丸めて歩いていた。手にはコンビニ弁当をぶら下げている。
弁護士の話では、あの時の愛人とはすぐに別れ、今は独り身らしい。そう聞いていたからかもしれないが、その姿には哀愁が漂っているように見えた。
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