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駅前広場に着くと、テディベアのたくさんついた可愛いクリスマスツリーの下に、海里と薫花は立っていた。
「ママー」
薫花に呼ばれ、私は手を振って二人に近づいた。
「さ、帰ってケーキ食べよっか」
「わーい」
私の言葉をきっかけに、薫花は駅の改札口に向かって一目散に走り出した。
「日菜」海里に呼ばれ、
「ん?」私は振り返った。
「何かあった?」
こういう時、妙に海里は鋭い。元々女心に敏感というわけではなく、私のことをよく見てくれているのだと思う。
「ううん、何もないよ」
私は首を左右に振った。わざわざ話すほどのことではない。久しぶりに颯介の姿を見て、過去のトラウマが、ちらっと頭をよぎっただけだ。
「大丈夫。俺はずっと日菜の側にいるから、安心して」
海里はグイと私の肩を抱きよせ、耳元でそう言った。
強い日差しに雪が溶かされるように、胸の中にあった不安がすーっと消えていくのを感じた。
「あー、ずるい!薫花もー」
私たちがくっついているのを見て、薫花が急いで引き返してきた。
「はい、はい」
海里と私は薫花を真ん中に挟み、三人で仲良く手を繋いで帰った。
永遠の愛があるのかなんて、私には分からない。
でも信じて一歩踏み出さなければ、その答えを知ることはできない。
私は、今、ここにあるぬくもりを大切に、正直に生きていくだけだ。
--- END
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