第二十一歩目

5/15
前へ
/334ページ
次へ
「柏木君と付き合っていたのは、僕です。 でも、僕は彼を振ったつもりは全くありません。 彼が僕の幸せのためだと言って、勝手に僕のそばから離れて行ったんです。 僕はそんなこと、一切望んでいないのに……」 そう言われると、チクンと胸が痛む。 僕は龍矢さんのためと言いながら、龍矢さんの気持ちを全然わかってあげられていなかったから……。 「だから今日、僕は彼を迎えに来ました。 彼さえまだ僕を受け入れてくれるなら、僕は彼を東京に連れて帰ろうと思っています。 仕事にも、きちんと復帰させるつもりでいます。 それが僕にとって一番の幸せであり、彼にとってもそうであると信じています。 だから……」 「だから……?」 僕がそう尋ねると、龍矢さんはなぜかスッと姿勢を正して深呼吸をした。 その姿が凛としていてとても綺麗で、僕はゴクリと喉を鳴らした。 「幸平を僕に下さい。 僕が幸せにしますから。 ずっとずっと大事にしますから。 籍を入れることは、法律上出来ないけれど。 一生、一緒にいることを許してください。 そう言って、頭を下げたんだ……」 「龍矢さん……」 こんな真剣な龍矢さんを、僕は初めて見た。 きっと今と同じ態度と波動で、両親に話してくれたんだろう。 そんな龍矢さんを見ていたら、僕は自然に目に涙が溜まっていた。
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2520人が本棚に入れています
本棚に追加