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言っている内容は頼りないのに、この人の口調はとても流暢で聞き惚れてしまう魅力がある。声が良いのだろう。いつまでも聞いていたい、と思わせる素敵な声をしている。
ベッドの上で背筋を伸ばして座る姿からも、育ちの良さがはっきりと表れていた。
残念な知らせを伝えねばならないのが、非情に心苦しく感じる。
一筋の希望の光が消えてしまっては、この人の体調にどんな影響が出るともわからない。
だけど、どのみち今嘘を吐いたところでいずればれる。
ならば今、娘の私が言うべきなのだ。
「天川さん。実は、母はすでに他界しております」
「・・・やはり、そうでしたか」
彼は驚かずに、落ち着いた様子でそう受け答えをした。
その反応が意外で、私の方が動揺してしまう。
「君を見ていたら、そんな気がしました。
ほんの少ししか話していないのに、君がどんな孤独な道を歩いてきたのか僕には感じるものがありました」
「え?」
「天川家にも代々伝わる神通力があります。
僕の力は微弱ではありますが、向き合う人々の背景を感じることぐらいの力はあるんです。こんなこと、君にしか言えませんけどね。君も僕と同じ、そうした人には視えないものが視える目をしている・・・違いますか?」
「・・・違いません」
私はやっと、落ち着いた気持ちで彼の瞳を見つめ返した。そこには、私が見てきた風景と同質の仄暗い閉ざされた世界が視えた気がした。
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