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「君さえ良ければ、僕の事は夏希と呼んでくれませんか?」
彼は真っすぐとした心を私に見せようとしていた。
名前を呼ばせるということは、特別な意味を持つからだ。
「だから、僕にも君の名前を呼ばせて貰いたい。
君の下の名前を教えて頂けますか?」
「美鈴です」
「美鈴・・・美しい名前です。君の魂に似合う名だ・・・。野々花さんはさすがですね」
まるで生前の母を知っているような口調で、私の名前を褒めた。
「僕はあまり長くは持ちません。
でも、人生の最期に素晴らしい出会いをした・・・美鈴に出会えた」
彼は・・・夏希はそう言うと、うっとりしてしまうほど綺麗な笑みを浮かべて私を見詰めてきた。
手が伸びてきて、私の手を掴むと、私を手繰り寄せて、両手を包み込むように握ってきた。
それがイヤではないのだから、私はもう虜になっていたのかもしれない。
「美鈴。明日も僕に会いに来て・・・お願いだから」
「・・・はい」
「君はとても綺麗だ。今まで出会ったどの女性よりも輝いて見える」
歯の浮くようなセリフが次々に出てきても、夏希が言うと真実だと思えた。
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