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それから僅かな時間だけど、私達は見詰め合った。
言葉よりも確かな交流ができる気がした。
彼の瞳の奥に広がる世界は、私が小さい頃から憧れてきた世界に似ていたから。
それに不思議と彼のことを他人とは思えなくなっていた。
ずっと前から知り合いだったような、とても近しい感覚がするのだ。
私は町立病院から歩いて半時間ほど山手にある墓地に足が向いていた。
そこには亡き母が眠るお墓がある。
私が7つの時。
母はある朝、目覚めなかった。
私の隣で静かに息を引き取った。
僅かに残った体温を感じながら、私は母に安らかに眠るように祈りを込めて見送った。
あれから11年。
そんなに経ったのかと、改めて感じている。
「お母さん。今日ね、不思議な出会いをしたのよ」
母はそこに座っていて、私の話を聞きながらゆっくりと頷く。
「お母さんに会いに来たの。だけど、私に出会って喜んでいたわ。
彼を信じても良いと思う?」
信じたければ信じてごらん、と言われた気がした。
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