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夏希の部屋のナースコールに気付いて私は全速力で駆けつけた。
お腹が大きいのも忘れて、ベッドに縋りついた。
夏希は今にも眠りに落ちそうな顔をして、私を見つけると微笑んでくれた。
だけど、その目の焦点が・・・少しずつ違うところにズレて行って・・・。
遠くを見るような目で、真ん中の黒曜石にような艶のある瞳孔から光が消えていくのを見詰めていた。
そんな中でも、彼は最後に。
私の名前を・・・。
愛してるってささやいてから、動かなくなったの。
信じられなくて。
悲しいというよりも、驚きの方が大きかった。
まさか、本当に死ぬなんて。
実感のない死を受け入れるのって、本当に膨大な時間が必要なのよ。
ぼやぼやしていられない胎児をお腹に抱いていたからこそ、
止まりかけた時間が動き続けたんだと思う。
夏希がプレゼントしてくれた夏鈴のおかげで、私は乗り越えられた。
だけど、夏鈴でさえも夏希の代りににはならなくて。
彼を荼毘に伏す瞬間の喪失感は想像以上に辛かった。
辛くて苦しくて、あの一瞬で私は人生最大の絶望を見たのだと思う。
そんな激しい痛みを夏鈴やこの子達には味あわせたくないわね。できるなら。
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