第1章 恋に落ちて

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木造の長屋みたいな学校で、 似たり寄ったりな格好に髪型をした男女がひしめいていた。 寒いせいでおしくらまんじゅうでもしているんだろう。 私はそんな雑踏には入らない。 遠巻きに彼らのことを眺めながら、どんなに寒くても一人がらくちんだから。 凍結した水道管からは水が出ないと大騒ぎになり、 トイレが使えないから運動場の脇にある汲み取り式のトイレに生徒たちが並ぶ。 この人数でひとつしかないトイレに授業が終わるたびに行列が出来た。 男の子は少しだけ山手の野原の分け入って適当に垂れ流しているのか 一人も並んでいなかった。 私も並ぶのはイヤだからと、 男の子達よりも少しだけ深い森の入り口に踏み込んで用を足した。 ふと、視線を感じて顔をあげるとそこには大きな鹿がいた。 動かなければ私には気付かない。 鹿は草食動物だけど、 驚かせると体当たりされることがあるとお父さんに警告されていたことを思い出した。 鹿がいなくなるまでしゃがんだまま動けない。 かなりの間、私は山の中の森に足止めを喰らってしまった。
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