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読み書きは好きだった。
学校で教えてくれることはすぐに覚えられた。
世の中にはたくさんの本があることを知ってから、学校図書や町の図書で私はよく本を借りて、初めて出会う文字をわら半紙に書きとって後で辞書で調べながら覚えていった。
中学生で習う字よりも難しい字を覚えるのが楽しくて。
トモダチなんてものはいなくても、私は本を話し相手にして育ったんだと思ってる。
激動の時代と呼ばれた昭和中期の北海道南部の漁村と農村で生まれ育った私は、水で薄く伸ばした卵焼きに塩だけで味付けしたものと、川で釣った魚と、父親が収穫してきた農作物を食べて、それなりに健康な体で育った。大病なんて無縁だったが、母が衰弱死した時は自分の体力を切り取って母に食べさせたいぐらい歯がゆかった。
だから、なのかしら。気付けば看護師という仕事を選んで隣町の道立病院と併設された大きな病院の看護学校に進学した。私は16歳だった。
白いエプロンに自分の名前を書いた名札を縫い付ける。
波戸崎という苗字は珍しい。私以外には出会ったことはない。
実習で組んだ仲間は、私の町の人ではないせいか、この名前を見て眉をひそませることはなかった。普通の人として接してくれた。やっと、自分がただの人間であるという実感が持てた最初の居場所が、この看護学校だった。
「おはよう!美鈴」と、声をかけてくれる友達が増えて、私は幸せだった。
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