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見習い看護師として最初に担当した患者さんは、孤独なおばあちゃんだった。
色々あって夫と子供と死別したっていうのに、あっけらかんと笑って暗い過去を語るその人の朗らかさに関心した。
「あんたも若いのに落ち着き過ぎてるよね。本当にまだ16歳なのかい?」
「そうなんですよ。これでもれっきとした16歳の乙女なんです」
色んな大人からそんなことを言われるから、返す言葉も定番化して行った。
体力と真剣勝負には自信がある私は、多少忙しくて疲労がたまっても人間相手に働く楽しさとやりがいを感じて、それなりに良いスタートを切ったと思う。
およそ2年経ち、准看護師の資格を貰い地元の町営病院で採用してもらうことになった。寮を出て実家に戻ると、父さんは相変わらず黙々と畑仕事に精を出していた。でも、なんだか顔色がおかしい、と感じて私は無理矢理病院に引っ張って行ったんだ。すると、早期の胃がんが見つかって即手術をして事なきを得た。
それから父さんは私と会話するようになった。
命が助かって、自分の寿命を意識したんだろうね。母さんが8つも若いのに早死にして、その悲しみから目を反らすように仕事に没頭していたことを、私に謝ってきてくれた。そんなことわかってたから、今更文句も出ないけど嬉しかったよ。やっと親子らしくいられるようになったんだから。
その僅か一週間後のことだった。
山奥の自宅から駅まで田んぼのあぜ道を歩いて、一日数本しかないローカル線の駅に立った時に、その駅のホームに一台しかないベンチに寝転んでいるあの人を見つけたのは。
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