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泣いて泣いて、泣き疲れて。
アタシはぼんやりとした頭を抱え、已月に言われるがまま、彼の部屋を訪れていた。
麗がずっとアタシの腕をとって支えてくれている。その頭のカチューシャは、いつの間にか消えていた。
「お茶、どうぞ」
渡されたのは、湯気のたつマグカップ。変わった臭いがするものの、嫌いじゃない。
一口すすると、鼻の奥にすっと涼やかな風が通り抜ける感じがした。
「そんな、已月様ララがやりますっ」
同じくカップを渡された麗が慌てて立ち上がろうとするのをやんわりと止めて、已月は自分のカップも運ぶと、アタシ達の向かいに腰をおろした。
寮の部屋は全員が一人部屋で、十分な広さがある。
「……和室なんてあるんだね。すごい」
じんわりと焦点のぼやけた頭が、そんなどうでもいい感想を弾き出した。
「已月様のお部屋は特別製ですもの~造りも広さも全部已月様仕様、通常の部屋の2,5倍なんですっ!!」
「……なんなのアンタ。已月信者?」
そういえば中学でもアイドルオタクがこんな感じになってたような……。
確かに小学生の時分ですら絶大な人気を集めた已月だ。成長して多少の凛々しさが加わった今なら、造作だけ見てもそこらのアイドルなんか目じゃないかもしれない。
「もちろんですっ!!
已月様のためなら、ララは死ねます!!」
「いや、死んだらダメだよ? ボクだって麗は大事なんだから」
うわー……。わけのわからない回答。
しかも、已月は苦笑でかわしただけなのに、麗の背骨がとろけてしまった。
ダメだこりゃ。
「ふっ…………あはははっ」
なんだか急に笑いが込み上げて来た。
きっと変なスイッチ入ってるんだ、アタシ。
だってまた止まらない。
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