1 狐とお揚げ

2/7
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
 何かがおかしい。  ここに来てから何回そう思ったことか。  一つ。入寮の日、バスを降りたとたんにお迎えが湧いて出た。  一つ。田舎過ぎて最寄りのバス停から徒歩30分もかかる。  一つ。秘境の全寮制私立高校なのに、在校生が千人超え。  一つ。入学式に保護者は呼ばれず、代わりにバカみたいに来賓が多かった。しかもグローバル。  一つ。敷地は山2つ分まるまるあって、校舎も7つ。  などなどなどなど…………。  細かいことを入れれば「おかしいでしょ」とツッコミたいことはまだまだ山積みだ。が、しかし。  目の前でケンカしている男の先輩。彼ら以上に奇妙なものはないと思う。  アタシは愕然としてその光景を眺めていた。 「だからアブラゲには葱だろ!?」  夕飯の箸を置き、びっくりするくらいどうでもいいことで言い争う吊り目の先輩。どうしたことか、その先輩のヒゲが見る見るうちに伸びていく。  しかもなぜか、横に向かってぴよんと……まるで猫のヒゲみたいに。 「七味唐辛子に決まってんじゃねぇかコラっ」  相対する厳つい体格の先輩も異様に激怒していて……さらに恐ろしいことに、なんと口がどんどん大きく裂けていく。  鋭い牙がチカリと光って見えたのは、きっとアタシの気のせいだよね……? 「こら! ケンカなんかしてないでさっさと食べなさい!」  見かねて出てきた食堂のおばちゃんは………………ちょっと待て。  ハロウィンでもないのにツノ、ついてるけど?  何、このカオスな状況……。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!