1 狐とお揚げ

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 ウェーブのかかったボブの髪の毛の隙間から、茶色くて丸い飾りが2つはっきりと主張している。  たまにピクピク動いているように見えるあたり、今時のアクセサリーは恐ろしい。  さっきまでは見かけなかった物体だから、食事用のカチューシャなのかもしれないけれど…………その設定、おかしくないか。  やっぱり痛い子なのだろう。 「えっ!? うっそぉ!! 耳出てます!?」 「無意識とか、本気でヤバいから」 「やーん恥ずかしいぃっ!!」  慌ててケモ耳を手で隠そうとする麗にげんなりする。  外せばいいのに。てか、髪を束ねたいならカチューシャとかじゃなく素直にゴムにしろ、マジで。  何やらブツブツと、 「大丈夫大丈夫大丈夫、ララは大丈夫。平常心へーいじょーうーしんっ。落ち着いて……いないいないたぬきはいない、人間人間人間人間人間人間っ」  俯いて独り言を言っているのが聞こえてくる。  ヤバいよね…………?  「なんなのこの学校。変人しかいないのかよ……」  思わず漏れた呟きに麗の動きが止まった。  あ。  しまった。アタシ、またやらかした…………?  これだから他人と居るのは面倒くさい。 「…………怒った?」  始まったばかりの高校生活、できるだけ平穏にいきたいのに……。  感情なんてものは、自分のものですら持て余すのだ。他人の感情なんて、察しろという方がムチャだと思う。  なのにアタシは周りから、思いやりのない自己中心的な人間として敬遠される。  いったい、みんなにはどんな世界が見えているというのか。  空気なんて、無色透明過ぎてアタシには読めない。  真似してみようと、努力した。  一人でいることに、慣れようともした。  アタシごときのプライドなんて、邪魔にしかならない。なのに…………捨てきれなかった。  この世界は息苦しくて、アタシは他人との会話を最小限にしようと思った。  それしか逃れる術がなかったから。
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