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「もう平気だよ、樺山さん」
放心したアタシの目の前に、どこかで見た覚えのある男の子の顔。
潤んだような瞳は茶色がかっていて、フワフワの髪もやはり茶色い。常に微笑が浮かぶかのような紅い唇。
テレビの中でしか見ないような、かわいらしい、フランス人形みたいな少年だ。
こんな子、そうそういるわけがない。
記憶の中の姿より成長しているものの、はっきりわかる。
「蓬莱、已月……………?」
小学校6年生の時、1ヶ月間だけ同じクラスにいた不思議な少年。
その外見と優しい性格で引く手あまただったのに、なぜかわざわざアタシに声をかけてきた奇特な人物。アタシ、孤立してたのに、だ。
「うん。久しぶりだね」
柔和であどけない微笑みが、思い出を鮮やかに蘇らせた。
已月の前では嘘がつけない。
あの頃、クラスで一番やんちゃだったヤツがそう言った。
みんなが同じ気持ちになったのは、きっと已月のもつ透明な雰囲気と、真っ直ぐな視線のせいだろう。
「ボクの部屋においでよ。樺山さんにはいろいろ説明したいし。
立てる?」
背が伸びたのに。声だって低くなったのに。
変わらない。
優しい、已月。
「……なんでアンタが…………。元気そうで、良かったけど…………」
体が弱くて真っ白だった已月の頬が、今はほんのりと健康的に色づいている。
久しぶり過ぎて、言いたいことはたくさんある気がするのに、うまく言葉にならない。
ただひたすらに、数少ない友人の……再開した驚くほど元気な姿に見入ってしまって……
「ロイちゃん!? どこか怪我しましたっ!? 泣いちゃ嫌ですぅ……っ」
「え…………?」
「大丈夫だよ麗。樺山さんは喜んでくれているだけだから。ね?」
嬉しいせいか、安心したせいか、それとも違う何かのせいか、自分ではわからない。
けれど、目元に手をやってみれば、予想外に大量の涙が零れ出ているのは確かで。
動揺のあまりハンカチで顔を覆えば、今度は嗚咽までせり上がってきた。
声を上げて泣くのなんて、いつぶりだろう。
恥ずかしい、止めなきゃと思うのに、止まる気がしない。
もしかして、アタシは泣きたかったのだろうか。こうやって、思いきり。
………………本当に、感情というものは、よくわからない。
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