納戸の意図

10/22

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
 それなら、きっといるのだろうと思う。  見取られるべき人が。  すぐに部屋を見渡したけれど、ベッドは空っぽだし、ワゴンの上に乗っている心電図測定器には電源が入っていない。 「もしかして……、トイレとか?」  うーん、と小首をかしげていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。 『……シブヤさんなんですけど、昨日から食事を受けつけないんです……。  ご家族にもう一度連絡した方がいいですか?』 『あぁ、アイリおばあちゃんか……。  それがね……、娘さんがいるんだけど、遠方にお住まいで、すぐには来られないって言うのよ。ったくね……』    誰かがこの扉の前を通りすぎようとしている!?  ダメもとで、扉を叩いてみるけど、当たっている感覚がまるでない。 『困りましたね……。  今朝見かけた時は元気そうでしたから、今日中は大丈夫だとは思いますが……』 『さっき私が見た時も、外を眺めてたから、寒いよ、って声かけたんだけどね……。  まあ、好きにさせてあげようと思って……』 『昨日から、ずっとそうですよね……、私、もう一度連絡してみます』 『そうしてちょうだい。手遅れにならないうちに……、ってね』  二人の会話はその後違う患者の話題へと移り、足音と共に遠ざかっていった。     
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加