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それなら、きっといるのだろうと思う。
見取られるべき人が。
すぐに部屋を見渡したけれど、ベッドは空っぽだし、ワゴンの上に乗っている心電図測定器には電源が入っていない。
「もしかして……、トイレとか?」
うーん、と小首をかしげていると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
『……シブヤさんなんですけど、昨日から食事を受けつけないんです……。
ご家族にもう一度連絡した方がいいですか?』
『あぁ、アイリおばあちゃんか……。
それがね……、娘さんがいるんだけど、遠方にお住まいで、すぐには来られないって言うのよ。ったくね……』
誰かがこの扉の前を通りすぎようとしている!?
ダメもとで、扉を叩いてみるけど、当たっている感覚がまるでない。
『困りましたね……。
今朝見かけた時は元気そうでしたから、今日中は大丈夫だとは思いますが……』
『さっき私が見た時も、外を眺めてたから、寒いよ、って声かけたんだけどね……。
まあ、好きにさせてあげようと思って……』
『昨日から、ずっとそうですよね……、私、もう一度連絡してみます』
『そうしてちょうだい。手遅れにならないうちに……、ってね』
二人の会話はその後違う患者の話題へと移り、足音と共に遠ざかっていった。
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