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「大丈夫だ、立花さん、大丈夫」
安岡さんの声だ。私の視界に映るこの人は……本物だ。
私は、戻ってきたんだ。
私の腕が少し緩むと、それに合わせて安岡さんの力も抜けた。
安岡さんは安岡さんで、私のことをぎゅうぎゅう抱きしめていたみたいだ。
お互いの力が緩んで初めて、安岡さんの胸の中にいるとわかった。
「もう大丈夫?」
心臓の音と声が重なって、心地良く耳に響く。
「うん。ごめん」
そう返事はしたけど、安岡さんの胸の中はとても暖かくて、私はなかなか手を離すことができなかった。
******
「……、仕事だけどさ……」
どのくらい経っただろうか。
何だか眠くなってきたなぁ……、とウトウトしかけた私の耳に、安岡さんの気まずそうな声が飛びこんできた。
「仕事? ――あーっ! そうだったっ!!」
私はガバッと胸から顔をあげた。
「ごめんっ! 仕事どうしよう!! 今からでも!?」
「あぁ、まだ訊きに行ってなかった。セーフだったな」
安岡さんはニカッと笑って、事もなげに言い放った。
「はぁ~? それ、セーフなの? アウトでしょ……」
私は呆れた声を出したけど
「あぁ、うんん。助かった。ありがとう」
正直にそう言って、頭を下げた。
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