納戸の意図

20/22

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「安岡さん」 「ん?」  声をかけると、安岡さんは紅茶をカップに注ぎながら、こちらに目を向ける。 「安岡さんはいつもあんな風に、見取っているのでしょう? ――つらくないの?」  彼は私の質問にはすぐには答えず、手にしたカップをテーブルの上に置いて向かいに腰を下ろすと、落ち着いた瞳で私を見つめた。 「あのさ。俺は思うんだけどさ。  生き物って生まれた時から死ぬことが決まっているよな。  生存時間の個体差はあるけど、死ぬことは決まりだろ?  その最期に立ち会うってことはさ、結構すごいことなんじゃないか、って思わない?  あ、俺も最初は、辛くてさ……、逃げ出したことがあったって、話しことあっただろ?」  私は頷いた。  以前安岡さんの見取りを見た時、そんな話をした。  自分の無力さに絶望した、って。  今日の私みたいに。    
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加