25人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
めぐみさんはずっと『私は誰かを不幸にする人間だ。死ぬべき人間だ』と言っていた。
一人息子のたくみ君を産むまでは……。
たくみ君が生まれて、めぐみさんは生きる目的をもった。
夫からの暴力からたくみ君を守ることを『生きる糧』にしていた、とアレンが教えてくれた。
けれどいつしか夫の暴力がたくみ君にも向くようになっていて、あの事件が起こり、それがきっかけでめぐみさんは、たくみ君の親権を放棄することになった。
今のめぐみさんにとって、たくみ君に代わる『生きる糧』はなんだろう？
もしかしてそれは『私達との生活』なのかもしれない。
「私だって、今の生活を大事にしたいと思ってるんだよ。
安岡さんだってそう思ってると思う。
何かあったら、必ずちゃんと相談するから……。不安なのはみんな同じだからね」
言いながら、テーブルの上のどら焼きをズイッと押して、食べるように促したけど、めぐみさんは俯いたままだった。
「あのね歩生さん、続きがあるの」
けれど意を決したように顔をあげて、今度は内緒話をするように声を潜めた。
最初のコメントを投稿しよう！