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『役所は、対応が遅い』
とよく言われるけれど、縦のラインがそもそも違うのだ。
だからせめて窓口を統一して、すぐに相談者の話を聞ける、力になれる環境を作りたい。
そのために毎週会議を重ねて問題点を解決したり、調整を進めている。
ぶっちゃけその分職員は、雑務の仕事が増えるから、残業や昼休みがなくなる日も珍しくない。
でも窓口が一つになったことで、きっと誰かを救える。些細なことだけど、もし誰かを救えたら、と思うと頑張れた。
***
「お! 昼休み5分前~! 今日はA定食いけるんじゃない?」
この日の会議はスムーズに議題が進み、珍しく昼休み前に終わった。
私は久しぶりに拝める食堂の人気メニューを想像して、早くも舌鼓を鳴らしながら廊下を歩いていた。
ふと、携帯の着信をスカートのポケットに感じて取り出してみると、めぐみさんからだった。
「もしもし? どうしたの?」
めぐみさんから着信があるのは珍しい。
何か用事がある時は、大概メッセージが送られてくるのが常だったから。
着信だなんて、嫌な予感しかしない。
「もしもし、立花さん?」
端末から聴こえる声は、めぐみさんじゃなくて、安岡さんだった。
瞬時に背筋が凍った。
「や、安岡さん!? め、っぐみさんになにかあったの?」
端末に齧りつく勢いで声を荒げると、安岡さんはすぐに返事をくれた。
「いや、大丈夫。
青木さんに何かあったわけじゃねぇよ。あ、もちろんアレンもはなも問題ない。
すぐに訊きたいことがあって、青木さんに電話借りてるだけだから心配いらねぇよ。
あのな、今日何時に終わりそう? 悪いんだけどさ……」
めぐみさんに何かあったわけじゃないと聞いて、息を吐きだす。
そして安岡さんの少し気まずそうな声に、落ち着きを取り戻して耳をすました。
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