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「三郎に『このまま父親がいない子供を産むのか?』って聞かれたから、『絶対に産む』って言ったのよ。
シングルマザーになって、この子を育ててみせる、って。
そしたら『旦那にはなれないけど、父親役くらいならできるかも』なんて言うの。
わけわかんないでしょ?
変な奴、って言って笑ったけど、正直嬉しかった。
あぁ。このままこの人と暮らすのもいいかな、って。
とはいえ、安定期に差し掛かった頃、雄大の父親が『認知したい』って名乗り出てきて……、結局三郎は出て行っちゃたんだけどね……」
小池さんはそこで一度黙ってから私を見て、たばこの煙を横に吹き出すような、少し口元を歪ませる仕草で言葉を吐き出した。
「私ね、あいつが『認知したい』って言ってきた時、もしかしたら結婚できるんじゃないか、って少しだけ期待したのよ。
同時に「やっぱりこの子の父親はあいつだ」って……。
三郎との生活を夢見たこの部屋から、あっさり三郎のこと追い出したの。
そのくせ後になって、あの時三郎のこと選んでたら……なんて、後悔したりして……。
酷い女でしょ。だからさ、ちゃんと『あの選択は、もうない』って、自分に言い聞かせようと思って……、三郎に会ってはっきりさせたかったのよ。
で、結果はごらんの通り」
小池さんは肩をすくめて、少しだけおどけた顔を作った。
けれど、思わずこぼれた言葉を私は聞き逃さなかった。
―― いまさら……だよね‥…。
それは、独り言みたいな小さな声だった。
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