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「じゃあ、言うけどさ……」
安岡さんは小さな咳をひとつしてから、真面目な顔をして口を開いた。
「あのさ、俺は……、ちょっと理由があって結婚はできないけど、父親代わりはできるかな、と思ったんだよ。
俺自身、物心ついたときから父親がいなかったわけなんだけど。
それでも、何とかなったからさ。
父親なんて、所詮その程度の存在だと思うんだよな。
まあ、とはいえさ……、ほかの家の子供がお父さんと一緒にいるのを見ると、父親って、どんなんかな……、って興味はあったんだよ。
だから由衣のためっていいながら、ちょっとやってみたかったんだよな、父親。
なんていうかさ、ガキを肩車したり、一緒に風呂入ったり。飯食って、添い寝して『お父さん』とかって呼ばれたりしてさ。
そういうのが父親だって、イメージだけはあったからな」
「やってみたかった、ってだけで、父親になるつもりだったの?
小池さんのことは? 好きだから家族になるつもりだったんだよね?」
私の呆れた声に反応するように、少し気まずそうに後ろ頭を掻きむしる。
私が『ちゃんと説明しろオーラ』全快で睨み付けていると、腹をくくったかのように両手で胡坐の膝を叩いた。
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