安岡さんの秘密

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「アレン……、今度は奥さんと子供が訪ねて来たらどうしよう。  奥さんと一緒に帰れって、言ってあげらんない……」 「ぐはっ。出たな、歩生の斜め上いく妄想癖。ついに安岡、コブつきか。  お前の頭の中、どうなってんだ?」  アレンは我慢ができないという顔をして、噴き出した。 「だって! 一緒に住んでる人と結婚できない事情、っていったら……」 「俺たちとだって住んでるじゃん、安岡。  あのな、男女なんてもんはさ、一緒に住んだら、はい結婚、とか。そんな簡単なもんじゃねぇだろう?」   「そうかもだけど……」  私の経験値じゃ、説得力のある言葉は生まれない。  けど、少なくとも小池さんと安岡さんの間には、きっとなんらかの特別な気持ちがあったんじゃないか、と思う。  だって、シェアハウス同然の関係だけど、こうして生まれてくる気持ちがあるんだもの。   離れたくない、というか……、傍にいて欲しい、というか……。 「歩生」 「ん?」  顔を上げると、アレンはまっすぐ私を見ていた。  初めてこの瞳を見た時、どうして何も映していない冷たい無色だと思ったのだろう。  アレンの瞳はいつだって多くを語っているのに。 「俺たちは? 俺たちがいなくなったら嫌か?」  ほら、こんなふうに……、少し不安そうに揺れている。  私は隣に座り、胡坐を組んだ膝の上でだらりと暇そうにしている手を取った。 「うんヤダ。ずっと一緒に暮らしていたい」 「でもさ、お前こそ、結婚とかどうするんだよ?   俺は男はキモイだけだし、安岡は結婚は無理なんだろう?  けどさ歩生、お前は違うじゃん。  お前はまだ若いし、これから男だってできるだろうし……」 「はあ?」  アレンがそんなことを考えていたなんて、初めて知った。
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