納戸の意図

2/22

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「歩生さん、いってきます~!」 「めぐみさん、いってらっしゃい。気を付けて!」  日曜日。めぐみさんは、DV被害の女性が入居しているシェルター【女性センター・若芽】のパートに出かけた。  そこで毎週末、シェルター内の売店で入居者が焼いたクッキーを販売している。  お客さんは主に職員や入居者なので、人見知りでも大丈夫だと励まされて始めた仕事だったんだけど、時々やってくる入居者の家族や関係者、特に男性に対しては恐怖心があってうまく会話できない……と、落ち込んで帰って来る日もあった。  そうして半年経った今は、随分と慣れてきたみたいで、帰ってきてから嬉しそうに『今日の出来事』を報告してくれるようになった。 *** 「んじゃ、いってきまーす」 「はーい。いってらっしゃーい」  そして安岡さんは、顔なじみの建築会社へ仕事のご用訊きに出かけた。  安岡さんは携帯電話を持っていないから、直接現場に行って仕事があるかどうか訊くんだって。 『携帯電話を持つほどの収入はないけど、時間はあるから今のスタイルで困らない』と本人談。 それに仕事が決まると、その期間は会社用の携帯電話を貸してもらえるのだとか……。  まあ、三十路すぎの大人捕まえて、私が携帯電話を買ってあげる義理はないから、本人がそれでいいんなら、問題ないのだけど……。  今どき携帯も持っていないなんて……、と思ってしまう。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加