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「歩生さん、いってきます~!」
「めぐみさん、いってらっしゃい。気を付けて!」
日曜日。めぐみさんは、DV被害の女性が入居しているシェルター【女性センター・若芽】のパートに出かけた。
そこで毎週末、シェルター内の売店で入居者が焼いたクッキーを販売している。
お客さんは主に職員や入居者なので、人見知りでも大丈夫だと励まされて始めた仕事だったんだけど、時々やってくる入居者の家族や関係者、特に男性に対しては恐怖心があってうまく会話できない……と、落ち込んで帰って来る日もあった。
そうして半年経った今は、随分と慣れてきたみたいで、帰ってきてから嬉しそうに『今日の出来事』を報告してくれるようになった。
***
「んじゃ、いってきまーす」
「はーい。いってらっしゃーい」
そして安岡さんは、顔なじみの建築会社へ仕事のご用訊きに出かけた。
安岡さんは携帯電話を持っていないから、直接現場に行って仕事があるかどうか訊くんだって。
『携帯電話を持つほどの収入はないけど、時間はあるから今のスタイルで困らない』と本人談。
それに仕事が決まると、その期間は会社用の携帯電話を貸してもらえるのだとか……。
まあ、三十路すぎの大人捕まえて、私が携帯電話を買ってあげる義理はないから、本人がそれでいいんなら、問題ないのだけど……。
今どき携帯も持っていないなんて……、と思ってしまう。
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