安岡さんの秘密

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「物心ついた時は、もう母親とふたり暮らしだったな。  パチンコ屋の2階に住んでてさ。母親は景品交換所の仕事をしてた。  後で聞いた話だとさ、デカい腹だったから、そのくらいしか仕事がなかったんだってさ。  んで、金がなくて病院行けなくて、風呂場で俺を産んだらしい。  『へその緒』をさぁ、台所バサミで切ったとか言うんだぜ。  女って、すげえよなぁ」 「マジで? お前の母ちゃん、すげえな」 「だよなぁ」  安岡さんとアレンは「うえぇ~」とか言いながら、人ごとみたいに話している。  私は口を挟めず、黙って安岡さんの顔を眺めていた。 「母親が言うにはさ、産んで2~3日後くらいに役所に出生届けを出しに入ったんだけど、病院で産んでないからだめだ、って言われたんだってさ。  それでどうしたかは、俺も良く知らないんだけどさ……、結局そのまま出せなかったらしくてな。無戸籍の子供が誕生したってわけだ」  安岡さんはいつもと変わらない口調で、淡々と説明している。  けどそれは……、ここに至るまでの過程があったわけで……。 「ごめん……」 「なんで、謝るんだよ?」 「だって……」  戸籍課のいる時、隣のカウンターでは出生届の受付をしていた。  その時、医師の証明がないという理由ではじかれた人に覚えがあった。  カウンターでは一言言うだけなんだ。 「受理できません」  そして、総合相談への案内をする。そちらで詳しく聞いてください、って。
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