雪降る夜に

28/31
194人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ
お母様の運転する白のベンツに乗って、宮の森のご自宅へ向かった。 大理石が敷かれた広い玄関に入ると、高貴なバラの香りに包まれる。 以前、谷さんのおうちを訪問した時と同じこの香りに記憶がタイムスリップし、なつかしさで胸がいっぱいになる。 谷さんの後に続いて、リビングへ通された。 以前とは何かが違って見えた。ひどく殺風景な気がする。 まず、花がない。 いつも窓際やテーブルに胡蝶蘭やアレンジされた生花が飾られていたけれど。 壁にかけられていた絵もない。 著名な画家の描いた風景画がいくつか飾られていたけれど、片づけてしまったのだろうか。 東山魁夷という画家の描いた、青い馬の絵を見るのが好きだったのに。 6~70インチもありそうなテレビの画面が破壊されていることに気づき、背筋に冷たいものが流れた。 まるで7つのエラーでも探すかのように、かつてのリビングの記憶との相違が、次第に明らかになる。 ここにはバカラのグラスなどが収められたキャビネットだってあった。 テレビのように絵画もグラスもみんな破壊されてしまったのだろうか。 所々壁がへこんでいることにも気づき、鳥肌が立つ。 お母様がキッチンへ入って、冷蔵庫の扉を開けた。 「お腹すいたでしょう。出かける前に用意していたから、温めるだけなのよ」 「あ、お手伝いします」
/374ページ

最初のコメントを投稿しよう!