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「なかなか、戻って来ないね」
窓の外で、はらはらと降る雪を眺めながら美冬さんがそう呟いた。
「もしかしたら、迷ってるのかもしれません。駅前のスーパーの道、中々わかりづらいんです」
こたつの上のカセットコンロにボンベが中々うまくつけれない僕は、美冬さんの方を見もせずに返した。男だけで僕の部屋で飲み会をする時は、いつも一発でつけれるというのに、どうやらこの状況に緊張してしまっているらしい。
がちゃがちゃと繰り返すうち、ようやくついた。
ふと視線をあげると、美冬さんはまだ窓の外で落ちて来る雪を眺めている。
「美冬さん、こたつ、入っててください。うちの暖房、古いから効きが弱いんですよ」
「じゃあ、遠慮なく。鍋の準備もほとんど終わってしまったようだしね」
「ええ、あとは買い出し係の肉を待つばかりですよ。さて美冬さん、先に何か飲みます?」
こたつに入り、頬杖をついた美冬さんは愛くるしい顔で迷わず答えた。
「では、ビールをいただきます」
「では、ご一緒させていただきます」
同じ銘柄のビールを冷蔵庫から2本取り出す。いつもは発泡酒ばかりだが、今日はビールにしておいて間違いじゃなかった。
「お、プレミアムのやつだね」
ビールを手渡されながら嬉しそうな美冬さん。
「もしかして、ドライ派でした?」
「ビールであればなんでもいい。と言いたいところだけど、プレミアムが一番好きでね。正直嬉しい」
カコッと音をさせて先輩がビールを開ける。僕もそれに続いてプルタブに手をかけながらこたつに入る。
つい癖で足を伸ばしてしまうと、何かに当たってしまう。
それが美冬さんの足だと気付くのは一瞬だった。
「あ、す、すみません!」
「構わないよ、ここは君の家さ」
「いえ、すみません……」
自分の顔がどんどん赤くなっている事に気が付く。
それを酒のせいにしたい一心で自分のビールを開けると、そっと美冬さんの持つ缶ビールに乾杯した。
そういえばさっきから喉がからからだ。一気に半分ほど飲み干し、早く誰か帰って来いと願っていると、それを嘲笑うかのように僕の膝小僧を何かがそっと撫でた。
それが美冬さんの足だと気付くのは、今度も一瞬だった。
美冬さんは、ビール片手に僕を見て微笑んでいる。
さて、僕もこの悪戯に乗って、足を伸ばしてみるべきか。
僕の恋は、足を伸ばせば届くのかもしれない。
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