我が友よ、やはりそれはどうかと思う。

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「よっ、相変わらず仏頂面してんなぁお前さん」 「…出会い頭にそれかよ、お前こそ相変わらず失礼な奴だな」 そして、待ち合わせ時間の10分前に来るのも、相変わらずだ。人を待たせることがない。失礼な癖に、妙に律儀というか、何というか。 俺とコイツは、幼稚園以来の幼馴染ってやつだ。家も隣で、小中高と一緒に進学。大学まで一緒なんだから、年季ものの関係。 そんな俺たちが何でバレンタイン当日に待ち合わせなんてしてるのか。特に深い理由はないんだがーーまあ、小学生だった俺の一言から始まった、毎年恒例の行事みたいなもんだ。 コイツは何でか昔からモテる。小学生の頃から今に至るまで、手に持ちきれない程度のチョコを受け取ってる。で、それを見たまだガキだった頃の俺は言っちまったわけだ、「俺も沢山、チョコ食べたい!」ってな。微笑ましいだろ? そしたらコイツ、満面の笑顔で「一緒に食べよ!」だ。いやそりゃ、当時の俺は大喜びで…美味しい美味しい言い合いながらニコニコ食べたわけなんだがな。流石に歳を重ねれば、このチョコレート一つに込められた想いにも気付くわけで。 だから、もう止めようと…そう伝えた。確か中学の時か?それに対する返答がこれだ。 「何で?俺が貰った物なんだからどうしようが俺の勝手だろうよ。お前と食べたいから受け取ってるんだからさー」 うん。何言ってんだコイツって、思うだろ?俺とチョコ食いたいから受け取ってるって…いやそりゃないだろ!女の子たちに謝れ!ホントにコイツは酷すぎる。 …だから、一瞬高鳴った鼓動も、湧き上がった優越感も、ただの気のせいなんだ。あまりにも衝撃的な発言に驚いただけ。そう言い聞かせて早7年。 ーー俺は、歳を重ねるごとに強まるトキメキと、戦い続けている。 「ほら、口開けろよ。あーん」 愉しげに微笑みながら、口元に差し出されたチョコレートの蠱惑的な香りにクラクラする。骨太の指で摘まれたそれを、指ごと喰べてやったらどんな反応をするだろうか。 …しかしだな、それは確か、サークルの後輩から受け取ってたチョコだよな?真っ赤になりながら食べて下さいって言われてたチョコだよな? それを俺にあーんしてんじゃねぇ!お前ホント、それはどうかと思うぞ!! ーーあぁ、バレンタインは…嫌いだ。心を丸ごと振り回されて…それを、心地良いと感じている自分を自覚してしまう、この日が、大嫌いだ。
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