マサトのバレンタイン前日譚

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 結城(ゆうき)マサトは、バレンタインが嫌いだった。正しくは、その前日が、である。  今年もやってきてしまったかと肩を落としつつ、二月十三日、学校から帰宅したマサトはリビングへと踏み込んだ。 「ただいま」  奥にあるキッチンに声をかけると、おかえり、と異口同音に姉と妹から返事がある。二人とも、学校の制服の上にエプロンをした状態でごそごそと動いていた。  毎年のことながら、リビングは酔いそうなチョコレートのにおいで満たされていて、彼女たちはチョコレート作りに夢中だ。  ただ溶かしたチョコを型に流して固めたものから、クッキーやブラウニーといった少し手が込んだものまで、毎年レパートリーを増やしつつやたら大量に作る。  そんなに作ってどうするの、そんなに男がいるのとびっくりして昔聞いたら、友チョコだと即答された。バレンタインとはいっても、いまは男性より女性のほうが多くチョコレートをもらえる時代だ。  去年、姉のなずななどは友達十人からチョコレート菓子をもらっていた。しかも全部手作りだというから、男子からすればうらやましい限りだった。
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