マサトのバレンタイン前日譚

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 妹のせりなも五人から菓子を獲得していたが、マサトは去年も例年通り収穫ゼロだった。  なんだろう、この理不尽。  うーんとうなりながらもリビングにあるテーブルにつくと、まず姉のなずながやってきた。 「これ、食べてみて。アッツアツだよ」  そういたずらっぽい笑顔でいいながら、なずなが湯気の立つカップケーキをミトンをした手に乗せて差し出してきた。  チョコレートが練りこまれているのだろうカップケーキの生地は濃い茶色で、表面にはチョコチップもちりばめられている。  味見第一号から重いのきたー、と内心で叫びつつ、マサトは姉の手からカップケーキを持ち上げた。 「あっつぁ!」  思わず変な声が漏れるくらい、それはまさに熱々だった。たまらずマサトは手放して、カップケーキが宙を舞う。 「落としたらぶっ飛ばすから」  にこやかに笑う姉は、空手部の部長だったりする。  去年だったか似たようなシュチエーションでブラウニーを落っことしたら、回し蹴りを尻にくらった。  頭のどこかで『マサト、タイキック』というアナウンスが流れた気がした。
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