マサトのバレンタイン前日譚

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 去年の二の舞になってたまるか、とマサトは宙に舞ったカップケーキを掴もうとした。  しかし。 「あちちっ、熱いってこれ!」  熱すぎて持てたものではない。思わず立ち上がって、お手玉をするように両手でカップケーキを転がす羽目になった。 「食べ物で遊ばないでよ。蹴るよ?」 「理不尽だ!」  叫んでから、マサトはカップケーキを回転させながら上へ高くほうった。落ちてくる頃には、熱も冷めているだろうと考えてのことだった。  しかし、どうやら高く上げすぎたらしい。  べちょ、と、焼き立てでまだやわらかいカップケーキは、不気味な音を立てて天井へとへばりついた。  一瞬後、硬直したマサトの、上へ向けたままだった掌へと、はがれ落ちたカップケーキが舞い戻ってきた。  なんとか持てる温度にはなったもののその表面はぺしゃんこで、チョコチップのいくつかは白い天井に食われてしまっていた。 「マーサートー……」  バキ、ボキと手の関節を鳴らすなずな。それを前にして、マサトは反射的に飛び上がった。 「うわああぁっ、待って! 食べる、食べますからこれ!」
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