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「すいません……料理、失敗しちゃって……それに、今日は用事がある事すっかり忘れていたので……そちらへ行けなくなりました……何か他の物食べてください」
何でこんな嘘が口から出たのかわからなかった……
料理も失敗していないし、用事なんてない。
そもそも、私が用事を忘れて森部長と食事の約束をするなんてありえない。
でも、口にした言葉を修正する言葉も出てこない……
「そうなんですか……でも、用事思い出してよかったですね。料理、失敗しても私食べますから……ナナミさんの手料理……食べてみたかったです………あっ!でも、こんな事言ったらナナミさんプレッシャーになりますよね、えっと……」
私の嘘に全く疑問を抱かない森部長に、嘘に気付いてもらえなかった寂しさと、素直で羨ましい気持ちが沸く。
「……すいません。また……」
「あ……はい」
スマホを耳から離し、通話終了マークを押す。
森部長は、多分、落ち込むと思う。
私にプレッシャーを与えてしまった事を後悔して、落ち込むと思う。
そうじゃないって思ったけど……私の勝手な思い込みで、後悔するところが違うって言ってあげたいけど……黒に飲み込まれた私の全てが、行動を止めた。
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