思い込み

73/73

749人が本棚に入れています
本棚に追加
/569ページ
「すいません……料理、失敗しちゃって……それに、今日は用事がある事すっかり忘れていたので……そちらへ行けなくなりました……何か他の物食べてください」 何でこんな嘘が口から出たのかわからなかった…… 料理も失敗していないし、用事なんてない。 そもそも、私が用事を忘れて森部長と食事の約束をするなんてありえない。 でも、口にした言葉を修正する言葉も出てこない…… 「そうなんですか……でも、用事思い出してよかったですね。料理、失敗しても私食べますから……ナナミさんの手料理……食べてみたかったです………あっ!でも、こんな事言ったらナナミさんプレッシャーになりますよね、えっと……」 私の嘘に全く疑問を抱かない森部長に、嘘に気付いてもらえなかった寂しさと、素直で羨ましい気持ちが沸く。 「……すいません。また……」 「あ……はい」 スマホを耳から離し、通話終了マークを押す。 森部長は、多分、落ち込むと思う。 私にプレッシャーを与えてしまった事を後悔して、落ち込むと思う。 そうじゃないって思ったけど……私の勝手な思い込みで、後悔するところが違うって言ってあげたいけど……黒に飲み込まれた私の全てが、行動を止めた。
/569ページ

最初のコメントを投稿しよう!

749人が本棚に入れています
本棚に追加