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土曜日の夕方が終わりに近い時間。
郊外にある駅で特に並ぶ必要もない程度の路線バス停車場所に数人が待っている。
その中にいるラフな格好の若い男性に制服姿の女性が話しかける。
「紀くん」
「奈緒?」
「仕事の帰り?」
女性は柔らかな表情だが男性は周囲を気にしている様子。
「まぁな、そっちは制服だけど、土曜日に遅くなる事なんかあるのか?」
「新歓の準備とか生徒会が忙しくて」
「相変わらずの優等生か……」
「何、ちょっと嫌味入ってない?」
「別にそんなつもりはない、ただ、優等生さんが俺なんかと話してていいのかと思ってな」
「言いたい人には言わせておけばいいよ、友達は私が自分で選ぶから」
「頑固な所も変わらずか、でも世間の噂ってのは勝手なもんだから、気をつけるに越した事はない」
「みんな紀くんの事を知らないだけだよ、意味もなく喧嘩してたわけじゃないのに」
中学までは売られたら買うタイプだった。
「周りからみれば喧嘩は喧嘩、家も荒れてれば普通は近づかないだろ」
「家の事だって、元はおじさんが……」
話の途中で携帯が着信を知らせる。
「ちょっと、ごめん」
「はい、川端です」
川端は通話相手の男に少し腰が低く見える。
「あ、俺、今から仕事あんだけど空いてるか?」
「はい」
「じゃあ、いつもんとこで」
「分かりました、直ぐ行きます」
川端は携帯を切るとバス停とは違う方向へ歩く。
「お仕事?」
「まぁな、ちょっとしたバイトだ」
「大変だね」
「稼ぐためには多少の苦労はつきもの、じゃあ急ぐから」
急ぐ川端を奈緒は軽く手を振り見送る。
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