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『“最初はグー”はなしね。遅刻するから。』
ヒナはそう言って、手を大きくふる。
『じゃんけん、ぽん』
ヒナの声が、水溜まりの氷をピリピリと震わせた気がする。
ヒナは、グー。
ボクは、チョキ。
ヒナが三歩進んだ、跳ねるように。
ヒナの背中には翼があるのかもしれない。ボクはずっとそう思っているんだ。
『じゃんけん、ぽん』
高く澄んだ大きな声だった。さえぎる物がないから、ヒナの声はまっすぐに空に飛んでいく。その声を捕まえたくて背中を伸ばすけれど、けっしてボクには届かない。
手を放してしまった風船が、風にのって空に昇るのを見送ったときのように、ボクの心はきゅんとする。
ボクは、一昨日の音楽のテストを思い出していた。
*
『なんでも好きな曲を歌っていいテスト』
何回か続いたそんな音楽のテスト。
出席番号の後ろからだったから、ボクはずっと待っていた。
今日は最後のグループ。名字があ行のヒナたち。
最初の二人がアニメの歌を歌った。先生のピアノの演奏で。曲は最初に先生に言っておくから、先生も練習をしている。
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