3.ここから

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恋とか愛とか もう久しくしていないなあ…と。 もしかしてこの先、一生しないのかも。 だって、好きだった相手から 『女じゃない』と言われ。 次に好きになった相手も、 何も言わずに去って行った。 これでまた恋をしようと思う女がいたら、 その人の心臓には 剛毛が生えているに違いない。 残念ながら私の心臓には 産毛程度しか生えていないので、 これ以上の自虐行為は無理だ。 「…えっと高橋さん、土曜ってヒマ?」 「はい、ヒマです」 本当は芳と各社のポテトチップスを 食べ比べると言う、 非常にバカバカしいイベントを 開催予定だったのだが。 相手が相手なのでついウッカリ、 そう答えてしまったのである。 目の前にいるのは涌井さんといって “商品開発室の一匹狼”と呼ばれる男だ。 商品開発室はその名の通り 商品を作る部署なのだが、 作っても売れなくては意味が無いため 営業部やマーケティング部と 何度も打ち合せを繰り返す。 残念ながら涌井さんという人は 発想のセンスなどは非常に良いのだが、 致命的に人付き合いが苦手らしく。 営業部では私にしか懐いていない。 3つも年上なのに、 “懐く”という表現は失礼だと思う。 でも、本当にそんな感じなのである。 きっと1度でも冷たくしたら、 この人は心を閉ざしてしまう。 そう思って、私は先の返事をしたワケだ。
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