3.ここから

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「商品開発室の涌井さんがね、 なんか土曜に付き合って欲しいって。 仕事の内容までは訊かなかったんだよ」 カラカラとハイボールの氷を 左右に揺らしながら健介が言う。 「…なあ、それって仕事じゃなくて、 “個人的に付き合え”という意味じゃ? なんかあの人、雅に馴れ馴れしいもんな」 「それは無いよ。だって涌井さんだもん」 何を焦っているのだ、私は。 そして芳も何を怒っているのだ。 「却下だな」 「は?なに、なんで?」 まるで独裁君主よろしく 芳は顔色すら変えずに続ける。 「だって俺の方が先約じゃないか。 俺、いつも雅を優先してるだろ? 舞美に誘われても断ってるのに。 なのに雅は俺を蔑ろに扱うなんて、 そんなの許せないじゃないか」 「許せないも何も。 そんな優先してくれなんて頼んでないし。 それにあの涌井さんが私を 恋愛対象にするなんて有り得ないと思う。 ほら私って中性的というか、 女とは思われてないでしょ? 芳だって健介だってそうじゃないの。 私を女だとは…」 話の途中で健介が、 私の手を素早く握り。 1本ずつ指を厭らしく揉んでくる。 強弱をつけたその動きに 驚きながらもゾクゾクしていると、 健介は不貞腐れたようにして言うのだ。
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