あまい。

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「日直、号令」  静まり返る教室。 「小野、号令」  小声で名前を呼ばれて背中をつつかれる。 「えっ?」  俺が振り返ったのと同時に。 「今日の日直誰だ?」  滝川はそう言ってちらりと黒板の端を見やる。 「小野航太」 「あっ、はい。すみません。起立、礼。よろしくお願いします」  俺は慌てて号令を言い、その号令に合わせてクラスメートたちは立ち上がり礼をしてまた座る。  一緒に座り直した俺は、滝川や周りのクラスメートに気づかれないようにそっと胸元の服を握りしめる。  いきなりだったとはいえ、名前を呼ばれただけで心臓が跳ね上がる。  ひとつ深呼吸をして、俺は授業に集中するべく教科書とノートを開き黒板に目を向けた。  滝川の教科書を読み説明する淀みのない声を聞きながら、黒板に書かれた文字をノートに写していく。  手が…綺麗だな…。  なんて考えてしまう。  そんな自分に自嘲しながらもノートをとる手は止めない。  そんな風に授業を受けているといつの間にかチャイムの音が聴こえてきた。 「はい、今日はここまで。じゃあ、日直は下校までに全員のノートを集めて持ってくる事。小野、よろしくな」 「あっ、はい」 「じゃあ、号令」 「起立、礼。ありがとうございました」  生徒たちの声を聞き終わった途端に滝川は教室から出ていく。  数学、英語、化学と授業が続き昼休みは学食へ。  眠い目を擦りながら5限と6限をやり過ごす。 「現国のノート、まだ俺のとこに持ってきてない人。今下さい」  下校前、ざわつく教室内に俺の声が響いた。 「やべっ」 「俺もだ」  そんな声がちらほら聞こえてきて、追加のように6冊ノートが集まった。  集まった全員分28冊のノートを抱えて、俺は現国の準備室へと急ぐ。  軽くドアをノックする。 「どうぞ」と言う滝川の声。 「失礼します」  準備室にある膨大な資料に埋もれるようにして座っていた滝川が少し顔を覗かせた。 「ノート持ってきました」 「ありがとう」  滝川は積み重なったノートの束を受け取ろうと、手を伸ばした。  俺はその伸ばされた手の上にノートを置こうとして、偶然触れ合った手と手にビックリして、急に自分の手を後ろに引いた。  当然のようにノートは床に落ちて散らばってしまう。 「すみません!」  俺は床に落ちたノートを集め直して拾い上げ、今度は滝川が座っていたデスクの空いたスペースにそっと置いた。 「ご苦労様」
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