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「僕の匂いでも分かるんだ?」
アジェは自分の匂いが薄い事を自覚している、驚いたように子供達を見やって笑みを零した。
「2人共父親に似て鼻が効くんだ、分かるよ」
「あはは、助かる。エリィと間違えられて泣かれるのなんかメルちゃんだけで充分だよ」
「マルクの所の子か?」
「そうだよ、本当参っちゃう。カイルさんを巡る攻防戦であそこは戦場だよ、子供の教育上良くないと思う」
あぁ…と俺も溜息を吐く。
挨拶の後、リクとの話の場を持ちたがったナダールと共に数日をデルクマン家で過したのだが、結局リクはこの一週間自宅へは戻ってこなかったのだ。
そして、俺達が出て行った後のマルクの家がそんな事になっているとは思いもしなかった。
「そういえばナダールさん、あなた親父の下で働く事になったって本当ですか?」
エドワードがナダールに声をかける。
「まぁ、成り行き上そんな感じですかね、はは…」
「絶対、止めておいた方がいい。絶対後悔するから止めておけ」
「そうだよなぁ、お前もそう思うよなぁ~ほらみろ、ナダール。息子がこう言ってるんだぞ、絶対後悔するって!」
俺とエディが声を重ねるように後悔すると言い募るのを聞いて、困惑したようにナダールは苦笑した。
「それでも私は生まれ付いての騎士ですよ。いつまでもムソンの彼等と同じ仕事はできません。だったら自分のできる事を信頼できる人の下でやってみたいと思うのです」
「その信頼できる人って部分が信用できないんだよ。お前はブラックを過大評価し過ぎてる、絶対後悔するぞ」
「大丈夫です、私は人を見る目には自信がありますから」
にっこり笑うナダール。
こうなってしまったらナダールは意地でも意志を変えない事を俺はもう知っている。
「まぁ、いいけどな。俺はお前にどこまでも付いて行く、そう決めてるから。ムソンに戻ったら引越しの準備だな」
「お引越し?」
「こし?」
子供達の頭を撫でて「今度住む所は人がたくさんだぞ~」とおどけて言うと、意味を理解しているのかしていないのか、子供達はまたきゃっきゃとはしゃいだように笑みを零した。
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