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弔問の多い料理店
行列のできる料理店など今どき珍しくもないが、その列をなす人々がもれなく同じ色の服を身に纏っているとなれば話は別だ。しかもそれが、もれなく沈鬱な面をひっさげた喪服と来れば。
私がその料理店に初めて足を運んだのは、たまたまその日の私が、知人の葬儀帰りの喪服姿であったからだ。そうでもなければ、わざわざ漆黒の行列にお気軽な普段着で潜り込む勇気など、地方公務員の息子である私が持ちあわせているはずもない。
だが逆に、普段から気になっていなければ、わざわざ葬式の帰り道に立ち寄ろうなどとは思わなかったのも事実である。よりはっきり言うならば、不謹慎なことに、私はこの日を待ち望んでさえいたのだ。
それはもちろん、某かの因縁や憎しみから、知人の死を待ち望んでいたというのではない。まさにこれに関しては、無差別殺人犯が都合よく口にするあの無責任な常套句「誰でも良かった」を当てはめるほかないのである。私が切に求めていたのは、知人の死どころか誰の死でもなく、言ってしまえば「死」ですらなく、ごくごく純粋に「喪服を着る機会」ただそれだけであったのだから。
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