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本棚に追加 少女たちに手を振り、昇降口で上履きから長靴に履き替える。新品の水色の長靴は数日前、高校生の兄の春生が誕生日に買ってくれたもので、晶のお気に入りだった。
雨上がりのツツジの葉っぱに蜘蛛の巣が張っている。ガラスのネックレスみたいな巣の真ん中に、トンボが引っかかって翅を震わせていた。
晶はきょろきょろと辺りを見渡した。このままだとトンボは食べられてしまうだろう。晶は落ちていた小枝を拾うと、トンボをそっと巣から助け出した。トンボの翅はベタベタした糸がついている。薄い翅を傷つけないよう蜘蛛の糸を引き剥がすと、しばらくしてトンボは何事もなかったように羽ばたいていった。
「バカじゃねえの」
そのとき晶のすぐ後ろで、そんな声が聞こえた。振り返ると、いつの間にかそこには例の少年が立っていた。少年と話をするのはプールの件以来で、晶は緊張で身体を強ばらせる。
「・・・・・・どうして?」
それでも勇気を振り絞って訊ねると、少年はそんなこともわからないのかと、呆れた表情になった。
「ほら、そこに蜘蛛がいるだろ。お前が逃がしたトンボを食べられなかったせいで、代わりにそいつは死ぬかもしれない。お前そこまで考えてさっきの虫を逃がしたの? そんなん単なる自己満足じゃねえか」
「あ・・・・・・!」
少年の言葉にショックを受けた晶は、ざっと青ざめた。見ると、晶が破ってしまった巣の端に小さな蜘蛛がいる。少年の言うとおり、もしこの後この蜘蛛が餌を捕まえられなかったら、トンボの代わりに死んでしまうのは蜘蛛のほうなのだろう。晶がしたのはつまりはそういうことだった。ずきんと胸が痛んだ。
「ごめんね・・・・・・!」
思わず晶が蜘蛛に謝ると、少年は皮肉げな笑みを口の端に浮かべた。
「お前蜘蛛に謝ってんのかよ。バカじゃねーのか」

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