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1、人間のクズ
「えーこちら東京都杉並区の現場です。たった今、捜査員二人に連れられて、進藤容疑者がパトカーへと連れられていきます」
朝8時3分。眩しすぎる朝日とけたたましいリポーターの声で目が覚める。一階のテレビの音だ。
「昨日の22時47分。進藤容疑者が覚せい剤取締法違反の現行犯で逮捕されました」
――また覚せい剤か……そんなのに手を出すなんて人間のクズ以下だな。
DVDが散乱した殺風景な部屋で、男はひとりつぶやく。そして、半開きのカーテンを閉じた。そして再び青白く光る画面に向かう。
コン、コンと音がした。
「春樹、ごはんはここに置いておくからね。早く就職活動行くのよ!」
食べ物などはのどを通る気はしない。ドアの外の声をよそに、春樹は早く目の前のグレートドラゴンに対峙した。今回の敵は強い。また回復アイテムを購入しなければ。
「25にもなって、人間のクズだな」
春樹はふとそうつぶやく。
ニートの道を歩き始めて2年。何度同じことをつぶやいただろうか。こんなことをしている場合ではない。何度そう思っただろうか。しかし、体がどうしても外へ出て行きたがらないのである。
――こんなことをしている場合ではない。今日こそはこんな生活から抜け出さないと。
――キサマごときに何ができるのだ?キサマには社会から隔絶された空間がふさわしい。
こんな悪魔と天使のバズーカ砲の撃ち合いが幾度となく春樹の脳内では行われていた。しかし、最近は撃ち合いすら起こらなくなった。いつのことだか、勝敗が決してしまったのである。最近、春樹にとってこの社会から隔絶されたこの生活は当たり前のものとなっていた。そうだ。自分にはこの青白く暗い部屋がお似合いなのだ。
――そろそろ時間だな。
春樹は暗い部屋を出ると、階段を降り、玄関の外へと足を踏み出した。
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