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進藤が所属していた西海シルバーウルフは10年前、球団史上初の日本シリーズ出場を果たした。10月29日、勝利数3対3で迎えたその最終戦。対するは京葉エアフォース。どちらが勝利しても初の日本シリーズ制覇、という局面であった。
九回二アウト満塁。0対3で迎えたバッターは4番の進藤だった。西海の主砲、進藤と京葉の切り札、中田の勝負はフルカウントまでもつれこんだ。そして中田が放った8球目を進藤のバットは見事にとらえた。球は右中間の彼方へ飛んでいき、飛距離179mの逆転サヨナラ場外満塁ホームランとなったのである。西海ファンのみならず京葉スタンドからも『敵ながらあっぱれ』との声が聞こえてきそうな程の大歓声が送られた。中田のピッチングが決して悪かったわけではなく進藤の技量が想定の遥か斜め上を行っていた、というのが翌日の各スポーツ紙共通の論調だった。奇跡の大逆転の立役者となり、威風堂々たる姿でお立ち台へと上った進藤はかくして時の人となり、『球界の大将』と呼ばれるようになった。
「球界の大将もこんなところに入っちゃ世間の笑い種だな。人間のクズだと見られているだろうよ」
「ま、批判する人はいるでしょうね。ただ一方で多くの人が復活を望んでいると思います」
「早く何とかしないと」
「そうですね。ただ――」
「ただ、何なんだ?」
「その立ち直る方法と手順をしくじると、また同じことの繰り返しになりますよ」
「同じことの繰り返し?そんなこと、俺は絶対にするわけがない!」
「――刑務所に覚せい剤で入った方は、100人いたら90人はそう言います。ただ、そのうちの大半はまた使ってしまうのが現実です。でもそれはその人がクズだから、といった理由ではありません。解決方法が間違っているだけなんです」
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