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「色彩構成の授業はあるけど、今のところはデッサンとかパースの取り方とか、そういったのがほとんどかな。まだ通い出したばっかだし、美大受験用のカリキュラムだから基礎固めって感じで。でも、コースによっては──」
頑張って冷静を装うけれども、自分でもわかりやすいほど浮き足立っているのを感じた。
だって、東堂が美術校に興味を示したってことは、これを機に彼女が進路を変更する可能性もあるってことだ。そうなってくれたらという期待は事実、隠せなかった。
だって、もったいない。あれだけ描けるのに描かないなんてもったいない。描くのがイヤじゃないなら、なおさら。どんなに頑張っても、才能がないと喘いでいる人間が世の中にどれだけいると思う?
「水彩画とか油彩画とか、やりたい方向も細かく選べるし、本気でやってる人たちと一緒に描くのってすごく刺激になるよ。試しに体験入学してみれば? 何だったらパンフ貰ってきてあ──」
「キミは」
僕の声を遮って東堂が口を開いた。口の動きとは逆に、バシンと乱暴にスケッチブックが閉ざされる。その様は、片方をオンにしたらもう片方はオフになるスイッチを思わせた。
「愛されて育ってきたんだな」
紙伝いに、横っ面を叩かれたような気がした。
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