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褒められているんじゃない。それは行動や刺々しい声音から如実に感じた。色を褒めてきた時とは明らかに違う声のトーン。表情。『甘やかされてきたんだな』としか聞こえなかった。
「何だよ。どういうこと? こっちは親切で──」
「親切? そうだろうね、キミにとっては慈悲深い助言のつもりなんだろう。でも気をつけたほうがいい。親切の押し売りなんて迷惑だ」
「な──」
「自覚がないところが厄介だね。ぼくの為と言いつつ、自分の願望を押し付けてるだけだってわかってないんだから。なあ、ちらっとでも考えてみたかい? そうやっていざぼくが本気になったとして、現実的な諸々の負担を誰が背負う? 予備校やら美大やらにかかる金を誰が出してくれる? キミがか? 仮にそこはクリアしたとしよう。でも、その先は? 何の保証もない世界に引きずり込んどいて、そのくせキミは何食わぬ顔でさっさとぼくの前から消えていくんだろう。それなのに興味本位で干渉する。これが親切だと? 何の責任も取れないクセに」
言葉が雨のようだった。鋭利な刃物の雨だ。胸に腹に脚に刺さって、動けなくなる。
「もういい。じゃあね」
さっきまで道端に伸びていたふたつの影は、気がつけば僕のものだけになっていた。それもすぐにぼんやりと曖昧になり、茫漠とした闇に溶けていった。
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