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浅はかだった。
僕は彼女の何を知っていた? 美術の時間の彼女しか知らない。それも東堂本人ではなく、彼女の描く絵しか。それなのに。
東堂には東堂なりに将来の展望があるんだろう。絵から離れた彼女にどんな情熱があるかもわからない。なのに、僕はただ一方的に『こうしてくれたら』と一人相撲をとっていたんだ。自分の夢を被せて。
そうだ。まったくもって東堂の言う通りだ。親切を装った自己満足。怒るのも無理はない。
昨日と今日ではこんなに気持ちに差があるのに、空だけは昨日と変わらなかった。街路樹がめいっぱいに枝を張り出して、日没間際の金のシャワーを浴びている。隙間からキラキラと木漏れ日。
風がそよと吹くたびに影もさわさわと動き、西日と葉の緑が柔らかく色を滲ませる。茜、柑子、蜜柑色。木賊、梔子、花萌葱……。
オレンジと緑と明暗の海に、ふっと濃い影が落ちた。影の元を辿ると、そこには黒のローファー。白い脚。濃紺のスカート。オフホワイトのシャツの上を栗色の髪がふわりと舞う。
東堂。
いつものように街路樹のそばのガードレールに腰掛けて、空を見つめる彼女がいた。
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