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あまりにも意外な──意外すぎる独白だった。
そこまで自分のことを買ってくれてるってことにもびっくりだし、何よりも東堂のコンプレックスじみた発言が驚きだ。あの東堂が? 嘘だろ?
そういえば、東堂の描く水彩画ってどんなだったろう。アクリル画は? 油絵は? いや、けっして下手だった記憶はない。ない、けれど──
「昨日はすまなかった。少し気が立ってたんだ。良かれと思って言ってくれたのは知ってる。でも予備校やら美大やらに行くつもりはないよ。そこらへんは理解してくれると嬉しい」
「うん……いや、こっちこそごめん」
「偉そうなこと言ったけどさ……ぼくも結局、同じことをしてたんだよな。キミのやることにどうこう言える立場じゃなかった。すまない」
背中が心細げだった。
一体どうしたっていうんだろう。昨日のことが尾を引いてるにしたって、なんだって東堂はこんな、すべての罪を背負ってるみたいなテンションでいるんだ? 僕の存在なんか半ば無視して、ひとり反省会をしてるような。
「別に気にしてないって。だからもう、このことはいったんチャラにしない? お互いにリスペクトしあってるってことにしようよ」
「それなら、渡辺」
初めて東堂に名前を呼ばれた。真剣な眼差しに、え、と思考が止まりかけたのも束の間、さっきのなんて比じゃない一言が投げ込まれた。
「キミの絵を描きたい」
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