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「ああ、助かる。どうも水関連は苦手でな。さすがにキミは手馴れてる」
「褒めても脱がないからね」
「人聞きの悪いことを。ぼくがいつキミの裸を描きたいと言った? キミこそ予備校で女のヌードを描いてるんだろうが」
「ヌ……! それこそ人聞きの悪い! あれはそんなやましい目で見て描いてるんじゃなくって!」
「そら見ろ。その慌てっぷりが何よりの証拠だ。まあいい。ぼくも無理を言って頼んだからには、それなりにサービスしてやってもいいと思ってるんだ。ほら、キミの女神がワガママを聞いてやるぞ。どんなポーズを取ってほしい?」
東堂がスカートに手を当てて、すすす、と太ももの上を滑らせる。こんなこと言っちゃなんだけど、全然そそられない。だって色気も何もないんだもんな。
「あ~。悪いけど、僕の女神は東堂と全然タイプが違うみたいだ。あ~残念だな~」
「はん、ボンキュッボンか。盛りのついた男子高生め」
「ボンキュッボン、ふっる! 東堂、いくつ?」
「同い年だが? ピチピチの女子高生だが?」
「オヤジか!」
一方はキャンバス、一方はスケッチブックをイーゼルにセットして、光や角度をチェックしたら立ち位置の微調整。そういった準備の間を埋めるように、僕らのくだらないやり取りはしばらく続いた。
予備校のない月・水・金の放課後。夕陽が地平に沈むまで。東堂は水彩で僕を。僕は東堂のデッサンを。僕らの季節はそうして始まった。
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