117人が本棚に入れています
本棚に追加
_________________________
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「やあ、これから予備校?」
まだ暑さの残る秋の入り。夕暮れ。繁華街へと続く道。
アスファルトをキャンバスにして、沈みゆく夕陽が時の移ろいを描いている。強烈な陰影の中に、何億と続いてきた昼と夜、何万と繰り返された四季のめぐりを、ぼんやりと輪郭に滲ませて。
呼びかけに顔を上げるやいなや、空から降り注ぐ盛者必衰の絵の具が、つうっと真っ直ぐに声の主へと走った。
「東堂。こんなところで何してんの?」
「別に。空を見てただけさ。やっと夏が終わるなと思って」
東堂 環
同じ高校の同級生。クラスこそ違うが、彼女と僕はある点でお互いをよく知る間柄だ。
東堂が腰掛けていたガードレールからすっと立ち上がると、街路樹の陰に溶け込んでいた姿が光のもとにあらわになる。半袖の白いシャツや短いスカート。そこから伸びる手足が夕陽色に眩しい。その光と陰の構図はさながらドラクロワ。太陽は巨匠の筆を持っている。
最初のコメントを投稿しよう!